渡良瀬川の石/石川敬大
 
酒くさいサラリーマン
なにかを失くしたひと
なくしたことすら気づかないひとを乗せて
電車は
にぎやかな街をぬけ
時代をぬけ
いつくるとも知れない朝にむかって走っていた

やがて電車から
ひとり降り またひとり降りて
最後のひとりが降りると
電車は
寝静まった街のへりをながれる川をわたった
それが渡良瀬川であり
その川にかかる橋であった
いや わたったのはポスト近代であったのかもしれない
ともあれ煌々と灯を点した電車はからっぽで
だれの仕業か
つめたくなった座席に
ひとの替わりの石がただひっそりと座っていた

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