墓/梼瀬チカ
 
私の見えている
見えていない
神の住まう処でない場所で
黒猫が鳴いていた
それは確かに墓地で
決して泣くこともなく
林を歩き
ただただ此処へ来た
来てしまった
独りの自分に
笑っていた

程近い森の梢で鳴く
鋭いモズの声を
警戒する
小さな蛙やトカゲや虫の嘆きを
聴きながら
笑っているのだ
恐れる事はない
何も
だって私はあの人達のおかげで居るんだから
当たり前の事なのに
酷いこと
こうして私はいる
なのに暗い土の底
埋められてしまった記憶と顔
思い出したから
来てしまった

バッグの中にはお花とお線香
生まれてきた契約を交わすため
今丸めた紙に火をつける
線香に火をつけ
そっと墓石の順番に置いていく
墓石に刻まれたあなた達のため
少しだけ悲しい顔を私はする







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