父よ/りゅうのあくび
生き抜く命であるために
海外での独り旅に駄賃を
ポケットに包んで
二十歳で渡った地球儀の向こう
できれば
旅先で覚えた
スラングで話したいよ
病気を乗り越えて生きるために
隣人の苦労話に耳を傾けながら
生きることに感謝することを
誓ったかたい握手に
体温を感じた
父の手のひらは
暖かったよ
身銭を稼ぐようになるために
父が継いだ小さな出版社で
昔あくせく働いていくことが
生きていくことだったときに感じた
父のとても大きい背中と
薄給が入ったばかりの茶封筒は
侘しいだけではなかったよ
夢を描くことだけでは
食べてはいけないのだということを
純
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)