声/カワグチタケシ
*
声とともに遠ざかる
深い闇はいつも僕の外側にあった
それは宇宙とつながっていて
私はそこにひかれたの、と彼女は言う
その声に僕は身をかたくする
夕暮れに開け放たれたテラスに
路地の向こう側のクリーニング店から
なつかしい匂いが流れ込んでくる
理想をつかみよせるには
僕らの声はいつも小さすぎた そして
声は止み、針の音だけが残る
薄れていく日射しを選り分けるように
僕らは手をふって別れた そして
声だけがいつまでも何度も振り返る
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時間はいつも正確に
声をかすめとっていく
大気の震えはかならず
波がひくように消えてしまう
夕暮れから
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