アトリエ/オダカズヒコ
まだ右も左もわからない京都で
途方にくれていた
五重の塔の縁先にねぐらを構え
夜の7時になると
京都駅八条口でアコースティックギターを奏でる
その曲に集まる
まばらなサラリーマンの目
昼間はスーパーの山田屋でレジ打ち
夜は男のアパートで洗濯もん
深夜には
信じられないほど乱暴に抱かれたあと
ポテトチップスうす塩味を指先でかじりながら
深夜放送を観て三角座り
「大事なことが見つかった」
そう残して去った男の背中を
アトリエの窓枠の外に見つめつづける22歳
時々 信号で車をとめて
歩行中の猫のあとをつけて行く
鼻先に煮干をつんと近づけてやると
たいていは5秒から6秒のあいだに落ちる
小脇に猫を抱えこむと
車の助手席に放り投げ
あとはアウディのアクセルを強く踏み込む
猫の瞳のなかに映りこむ街角や世界を
センターラインの向こう側へ
徐々に傾けながら
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