夜のオクターヴ/衣 ミコ
 

暗闇の中で
夜眼のきかない私たちは
離れ離れになり惑い
不安げに歌を口遊む
重ならない音
不協和音が大気を揺らす
世界中が苛立ちで満たされる


もっと明るいうちに
互いの眼を見て
練習しておけばよかったと
陽が落ちてしまってから気付いても遅い
予め用意された舞台に登ることは
誰もが知っていたはずなのに
私たちは太陽の眩しさに
みな呆けてしまっていたから

無意識のうちに手渡されていた
譜面の数々も
役に立たないのなら
燃やしてしまおう
体温を奪う冷たい月の光
炎の明かりで確認し合う事しか出来ない
今を憎む事よりも先に
私たちは

夜のオクターヴ
それを
どれだけ美しく歌いあげるか
ただそれだけに
心を尽くして

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