雌鹿・連作/竹森
 
りつけて擦る「射精!」と言い雌鹿。笑いだす雌鹿。





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‘Bible’

釣り竿で釣り上げたものは勿論
くすんだ黄金色した一個のヤカン
蓋を開くと中に一冊の聖書が入っている
ふと周りを見渡せば木々の陰から七匹の雌鹿がこちらを見ていて
その首には私の手元にあるのと同じ聖書が
紐を通して掛けられている
私はヤカンの取っ手の異様な長さに気付き
それを首にかける
そして泉に唇の先を浸す、と、
ヤカンの中に、透明な水が汲み上げられていく
雌鹿たちが警戒を解き、私の元へと歩み寄ってくる
私と雌鹿は目を合わせて共に微笑み
雌鹿は首にかけられた聖書を泉で濡らしながら
透明な水面に唇の先端を浸し
私はそんな雌鹿達の艶やかな胴体を
見事な紅葉色の毛並みに沿って撫でていく
毛並みの流れる先の梢が風に揺れ
泉の水面や
泉の反対側の梢や
土に汚れた私の背中は
風に揺らされないまま
風が吹いたのでは
なかったのかもしれない
なと
雌鹿達が泉の水面にいくつもの波紋を起こし
それらが重ね合わされていく
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