リセットボタン/梓ゆい
 
名前を呼ぶのは、心を満たしたいと願うから。

前を行く背中が遠くに見えて、少しだけでも触れたいと伸ばす手が無意識に振りほどかれて行く。

「居なくなってからでは、もう遅い。」

しゃり…。しゃり…。しゃり…。

骨を踏む足裏の感触が、消えることの無い傷を残して予期せぬ別れを叩きつける…。

しゃり…。しゃり…。しゃり…。

待ち受けている死神は、大切な人たちを連れ去って
一人で生きねばならぬ私の魂を、縛り付けて何処かへと向かって行った。

『ぎり…ぎりり…ぎり』

軋む音が響くと、噛み合わぬ心と感情がねじれて壊れて行く。

(無い事にすれば、良いのだろうか?)

閉じた目は、二度と世界を見ない。

好きと言うよりも、抱き締めたかった…。

横に座って、感謝をすれば良かった。

しゃり…。しゃり…。しゃり…。

答えの無い沈黙は沢山だと、行き場の無い想いは消滅した。





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