バス停の青年/小川 葉
雪の中の、気の利いたジョークのような気がして、私も笑いながら、ノンステップバスに乗車した。
私はすぐに降りるので、前の席に、駅前までの青年は、後ろの席に。
バスは出発し、外の暴風雪の道を、暖かい車内から見て走る。
ふと、思い出す言葉。
「電車、動いてますかね…」
振り返ると、青年は、赤い頬をして、私に手をふっていた。
「ああ、大丈夫だ」
私は内心確信し、幸町交番前バス停で、すぐに降りた。
バスの最後列の席の窓から、青年は、降車した私を見ている。
「電車、動いてますかね…」
その言葉を残し、手もふらず、バスは、青年とともに、行ってしまった。
青年は、どこまで行くつもりなのだろう。
秋田駅前で、バスを降りるのだろう。
それから…
奥羽本線、上り列車に乗るのだ。
「電車、動いてますかね…」
「電車なら、きっと、動いている」
私は、心の中で、そう答えた。
ある、願いをこめて。
青年の言葉は、懐かしい、県南訛りだった。
私が捨てた、ふるさとの、県南訛りだった。
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