小学生の夜/宮木理人
る。だけどぼくの想像力がおぼつかないせいで、その女の子が顔が毎回のっぺらぼうになってしまう。ぼくはぼくの想像力の至らなさを恨みながら、深い深い眠りにつく。そんな夜を繰り返していくごとに、ぼくは顔のない女の子に本気で恋をする。
父親が隠したエロ本の在処。誰のだか分からない電話番号のメモ。母親のタンスから香る謎のせっけんの匂い。
お父さんやお母さんや友達にも言えなくなってしまった言葉を、手紙に書く。それを折畳んで折畳んで限界まで小さくなったやつを、タンスの隙間や冷蔵庫の裏、ドアの付け根の小さな溝に、そっと差し込む。
それはなにかしらの鍵のようになり、書いた言葉によっては差し込んだ瞬間、部屋が一瞬だけ回転する。
何も壊れないし何の衝撃もないのだけれど、たしかにクルッと一回転するのだ。お父さん、お母さんも寝たまんま。これはぼくしか知らない遊びだ。
色んなからくりがこの家にはある。
満月の夜になると、このアパートには羽が生えて、町内を2時間ほど飛行する。
そして眠っているカラスを順番良く食べてお腹いっぱいになったあと、新しい朝がくる。
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