いまのところは/ホロウ・シカエルボク
首を突っ込み、まっくらなノートパソコンの画面に向かって、「お待たせしたわね」と言った、ようやくそれだけ言った、そして、無理矢理に笑って、手を振った
まっくらなノートパソコンの画面に、頑丈な天井からぶら下がって、打ち上げられた魚のようにびくんびくんと痙攣している彼女の姿が、うっすらと映っていた
避難したひとたちの中に彼女の姿がないことに気づいた隊員が息を切らしながら再びそのドアを開けたときには、もう手遅れだった、彼女は手のかかるシャンデリアのように、硬直してぶら下がっていた
隊員は彼女に背を向け、携帯電話で近くに居る仲間に連絡した、「そこにいる警官をだれか連れてきてくれ」
騒ぎは終息しつつあった、被害者は衝突した車の双方の運転手と、天井からぶら下がっている女がひとりだけだった―
いまのところは。
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