寒い夏/イナエ
 
りと暮らしていた
一時結婚もしていたのだが
その頃にはすでに片肺を失っていたのだ
義姉は入退院を繰り返す兄に嫌気が差したか
他の男の元へ走った

そのときも兄は
シャバに居るより入院が長いのだから仕方ないさ
と言って、連れ戻すと息巻く友人達を制した
その頃からこのこと有るを予測していたのかも知れない

役所の同僚達が 兄を病院へ送っていく車で来ると
寝具や僅かばかりの身の回りの物を車に積み込み
此処にあるものは何でも自由に使って良いからね
と 薄ら微笑み乗り込んでいった

  今 黒枠の写真をちゃぶ台に置き
  広くなった部屋に座していると 
  主の去った家の壁から冷気が押し寄せ
  身震いを禁じることが出来ない
  まだ 八月になったばかりだというのに


                     ー昭和四五年の夏のことー
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