引き継ぎ/秀の秋
定年退職後4年目のはじめのころ、ある短期集中ヘルプデスクの仕事をした。
二十数名のメンバーのうち、ほとんどが若い人達で、年とったのは私一人。
最初の一週間、ヘルプの知識や電話応対の研修があったのだが、
若い人達が、ほんの一日二日で見違えるように上手になっていくのに驚嘆した。
まだまだ仕事ができるはずだと内心自信はあったのだが、
一週間経ってのテストで、自分がほとんど最下位近くにいるのを知った時、
自分が老いてしまっていることを実感したのだった。
若い人達を見ながら、そう若いということはこういうことなのだと、
いまこうして、自分は仕事では使いものにはならないレベルの
ただの老人の一人になってしまったのだと。
幸い、若い人達は、私の過去を知らない。
私を、仕事を覚えるのに四苦八苦している一人の老人として、
労わってくれさえするのを感じると、自分の自尊心というものは崩壊したが、
これが仕事にしろ何にしろ、老いた人から若い人への役割の受け渡し、
あるいは人生の引き継ぎなのだと納得したのだった。
戻る 編 削 Point(1)