牛丼屋/アマメ庵
遅番の勤務が終わると、すっかり夜の真ん中だ
人も車も絶えた県道
遠くまで並んだ青信号
夜取り残した原色の電光看板
この店の窓はいつも結露でいっぱいだ
入り口を入って、半島型のカウンターを回り込んで座る
いらっしゃいませの明るい声
「牛丼、並。と、卵」
メニューも見ずに言う
注文はいつも同じだ
週に二度か三度は来る
店員も明るいおばちゃんか、茶髪のあんちゃん
顔くらいは覚えられているだろう
いつも同じ注文をすることもきっと知っている
それでも、知らぬ存ぜぬ
准えるマニュアル
こちらも、いつも律儀に応える
「いつもの」などとは言わない
現代都会のエチケットだ
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