弧愁/鵜戸口利明
 
駅の改札前を
群衆たちは
怖じ気もつかず
黙して
ただひたすら
何者かの奴隷になるために
血道をあげているかのようだった

人々は
それで幸せだった
ぼくも
衝動的に
奴隷になることを欲して
群衆たちに追随しようとしたが
群衆たちと
歩調を共にできないもどかしさから
そもそも
ここまで喘ぎながら生きている
意味がわからなかった

ふと立ち止まって
人心地つくと
ヒシヒシと
独りとり残された不安と
絶望と
淋しさ
遣るせなさ
そして
それでも彼らと同化せねばならないという
強迫に
襲われはじめた
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