粒光季/木立 悟
細かな雪が
隙間なく降りそそいでいる
長く低い壁の向こうに
巨きな一本の老木があり
黒と銀にたたずんでいる
動きも音も雪のもので
老木は自身の他は持たぬまま
ただ自身で在りつづけている
壁は地の亀裂に沿ってのび
荒れ野と川を分けている
荒れ野には
音叉が沈んでいる
目を閉じても ひらいても
荒れ野に立つ子へと訪れる
光の粒の歌は止まない
赤を視よ
緑を視よ
星よりも大きな鳥たちを視よ
壁には蔦がからみつき
川の滴を荒れ野に落とす
壁は幾度も倒されて
そのたびに長く建て直され
かけらは荒れ野にちらばり
沈みつづけて音叉になった
老木は
それを見てきた
空のにおいは
水に脈打ち
地にふるえ
光の粒は枝を流れ
荒れ野に歌う子の手のひらに降る
空を覆う一羽の鳥から
雪と歌と光と涙
朝と夜さえ降りそそぎ
老木のかたち
音叉のかたちを奏でながら
手のひらのなかの空に咲く
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