薬売り/山人
 
な実を実らせ幸福を引き寄せるのです。
あなたが私の為にこうして玄関のあかりをともしてくれたこの光、この電灯というものを作り出そうとした人ですら、きちがい扱いされてきた時代があったのです。ありえない発想、つまり、心という無の物からあらゆるものは誕生したのです。あなたの周りにあるすべての事象、いえ、あなた自身の今、それらはすべて無からあなたの心が作り出した作品なのです。そのために、心が良くならなくてはどうしようもないのです。
 一気にまくし立てるように言い放つと、最後にとびきりの笑顔をまき散らかした。
いつのまにか、結局頷いたりするのみで、いいように言い包められてお金を払い、薬屋を見送っていた。
 薬が切れかけた頃、テレビで薬屋の逮捕が伝えられていた、薬事法違反である。
きびきびとした態度、眼光の鋭さ、定規で当てたような七、三の髪は煌々とひかりに照らされて輝いていた。背骨を軽く折りたたみ、一礼すると、何かをやり遂げたような安堵が漂っていた。
 「利く薬がまたひとつ消えたのか」
私は、そうつぶやき、最後のラムネ菓子を口に放り込んだ。
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