薬売り/山人
 
 ふと誰かが呼ぶ声にはっとして玄関に出てみた。やや関西訛りのする初老の胡散臭い中年が立っていた。薬売りだという。昔ながらの熊の謂だとか、小さなガラス瓶に入った救命丸など、まったく利きそうもない薬をずらりと並べた。
 そんなもんいらねぇ、と言おうとするのだが、なんとなく巧妙に遮り、薬売りはするすると勝手に会話を続ける。並べてふっと一息吐き、「いかがですか?」と言う。意気込んで喋ろうとすると、「心の薬もあるんですよ」。真っ直ぐ物怖じせず一矢射るように言葉を発した。
 行商人だから重い大きな風呂敷に包まれた箱を背負って歩いてきたのだろう、しかし蒸し暑い季節なのに汗ひとつかいていない。胡散臭そうではあ
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