やさしい人になりたかった/香椎焚
やさしい人になりたかった
やさしい人になりたかった
それは何のため
やさしさよりも気遣いだよといった
やさしかったかどうかはいつもびみょうだ
気遣ったつもりかどうかなら頷ける
たとえ無意味でも
やさしさは何のため
うつくしさのため
破砕されるときをじっと待っている
碧いビー玉のうつくしさ
やぶれるときのうつくしさ
うつくしさのため
ではなかった
やさしさは何のため
よろこびのため
朝目覚めたときの
君がはにかむよろこび
見えないところに触れるよろこび
よろこびのため
ではなかった
それは考えてはいけないことだ
それは何にもならないことだ
やさしさは何のため
つながりのため
一生傷を守るつぎはぎ
透けはじめる日をつなぎとめる眼差し
透けはじめる人へのつながり
つながりのため
ではなかった
やさしい人になりたかった
そうしてわたしは
床と天井が絡まってひとつになってしまうまで泣いた
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