老女の歌/草野春心
 


  明るい部屋に棲む薄暗い老女
  出来損ないの散文に似た服をきて
  皺のよったビニールじみた手には
  何が為拾ったか判らぬ小石を力なく握る
  愛してきた者たちの瞳にもう愛はなく
  空の青さえ記憶からこぼれて落ちそう
  じぶんは忘れられた歌なのだと老女は嘆く
  だがまだしもそれが本当だったらどんなにいいか
  部屋の明かりを消しても老女は暫く目覚めている
  薄暗い恥辱だけが彼女を正気に保っている



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