穴蔵に住まうもの/石田とわ
ただそれだけのはずだったのに
暗い穴蔵へ落ちたのだった
夜を千倍にして流しこんだような
なにも見えない本当の闇
一瞬の過去を喪い、
未来は醜く捻じれ歪んだ姿で現れた
どこでどうすごしたかわからぬまま
いま、此処に在る
穴蔵へ落ちる前と変わらぬ世界
あれ以来、わたしの背中に魔物がへばりつき
耳元でひそひそと善からぬことばかり囁いている
もう穴蔵へは行けないよと
くり返し、くり返し言い聞かせるが
聞いているのかどうかも怪しいものだ
この魔物が背中から消える日が
いつかくるのだろうか
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