敗北/草野春心
 


  長い歩道が
  河馬のようにみえる午後
  男はあおいホースで車を洗っている
  ふたりの老親と数十万程度の借金と
  慣れ親しんだ不眠とが彼の歪な肩に載っているが
  飛沫のなかで彼の浮かべるのは寧ろ幸福な笑みである
  二年前に買った合革のブーツに枯葉が貼りついている
  様々な形で彼に示されてきた幻滅たちのコラージュ、
  かつては肉体を占拠し明滅し蠕動していたそれも
  もう中指のあたりで静かに痙攣しているだけだ
  黄色いナンバープレートが図々しく笑いかけても
  その意味を詮索したりは決してしない
 


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