中村梨々詩集『たくさんの窓から手を振る』について/葉leaf
人間が徐々に社会や現実と調停をとっていくように。
だから、中村の詩作の内容に青春らしさがないからと言って、それを単なる大人の余技とみなすことはできない。むしろ中村は内なる混沌と向き合い、激しく葛藤し、それでも調停を試みるという、若者顔負けの営為を詩作の現場で行い続けているのである。そして、そこには青春の刹那的な激しさとは異なり、子供らしい純粋さや鋭さを血肉化し保存していこうという永続的な営みが見て取れるのだ。中村は月並みな青春に駆動された一過性の詩人ではない。否応なく成熟を迫られる社会の中において、このように内なる子どもを保存し続けることは困難であり、その困難な営為を詩作として表現している中村は稀有な存在だと言わねばなるまい。
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