中村梨々詩集『たくさんの窓から手を振る』について/葉leaf
 
ケースももちろんあるが、およそ抽象的で、人間らしさのかけらもない詩行が葛藤に基づいて発されたりもするし、まったくもって静けさに支配された詩行が発されたりもする。だがそれらの詩行は何らかの意味で葛藤に結びついている。
 この引用部の前半は、きわめて静的な描写になっており、大人の女性の淡々とした精神がうかがわれる。引用部の後半には、こわれやすい子どもの世界が幾分投影されている。だが、ふりだしに戻って考えよう。そもそもこの詩がなぜ書かれなければならなかったか。私はここに、中村の、自己の中における大人と子どもの葛藤を見て取る。中村は大人になりながらも子どもの精神、その自然な混沌をずっと鮮明に抱き続けた詩
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