帰省/游月 昭
 
、顔を上げると
ルームミラーの顔が左を向けと言っている
窓いっぱいに花火の粒がうつっていて
車は坂道をのろのろと登っているから
おばあちゃんの家に着くのが
「あとなんじかん?」とは訊かない

ガラスに頭をくっつけて
とじた目に点滅する光と
窓ガラスをものともせずに花火太鼓
僕の胸を圧迫してくる



アスファルトの境をこえる微振動
この地方の高速に特有の
ザラザラしたセメント路が
ときおりタイヤをけたたましく鳴らしている

後部座席の父の様子を
ルームミラーで気づかえば
父はアヒルぐちで応えてくる

グループホームのおばあちゃんは
天使のようで白く
ボケてしまったけれど
父の名前を聞いて思い出してくれた
最後に僕が父に手を握るように言うと
母と息子はしばらく両手を握りしめ
「また来っけん」
と別れた





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