帰省/游月 昭
年末の満タンの汽車の中は
タバコとナフタリンと
金属が焼けるような暖房の匂い
腰から下ばかりの景色がきゅうくつで
ひとりひとつの受け持ちバッグに
僕はうんこ座りでつかまっていた
突きだしたアゴを左にずらして
もさもさズボンをとおり抜けたとおい目を
冬には用のない天井の扇風機に向けて
「あとなんじかん?」を連発していると
父の時間のケタがひとつ減り
よし、と肘杖ついてまたアゴをずらす
ウラ拍の十六分音符に
付点八分音符がついて
リピート、八部休符
のくり返しに
向こうの入り口の方から別の音符が入って
後ろに通りすぎていく
父の声が聞こえ、顔
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