氷/葉leaf
自然消滅したとき、突き刺さってきた反原発団体の被害者感情が、私の裸の感情を刺激した。
人生とは湖のようなものだ。本来私たちを呑み込み溺れさせる深淵を備えている。だが私たちはその湖に氷を張ることによって、氷を割らないよう注意深く歩きながら平坦な歩行を確保している。仕事とは、業務とは、この氷の存在がなければ不可能である。氷の下に隠れている怒りや悲しみの感情に溺れていたのでは業務に支障が生じるし、いつまでたっても復興へと歩みを進めることができない。だが、やはり人生は氷の下の膨大な水の方に本質があるのだった。私は仕事納めの日に反原発団体の演説を聴くことで、自分の載っている氷が突然割れてしまったのを感じた。私は急激に、氷の下に隠していた、業務や事故から発生する沢山の消化しきれない感情に溺れそうになった。私の流した涙、この放射能の町で放射能と戦う仕事をしているのだなあ、という感慨に基づく涙、これは、私の湖から流れ出た美しい川の一条に他ならない。私の鎧の下に隠された柔らかい感情のひらめきに他ならない。
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