夜へ 水へ/木立 悟
海のなかの
窪みはあふれる
浪は押し寄せ
押し寄せ 吹き上げ
幾度も幾度も
空に溺れる
雨が雨の甲を握り
指の隙間を光に満たす
重なる雨 震える雨
雨の上を歩き去る影
曇が旋る
夏を吐く
冬の上に
幾度ともなく
いかずちは来る
離れては付き
離れては付き
水と傷は隅にかがやく
径に段に辺に樹に
治ることなき明るさに病む
星雲が難破し
星はただあふれるばかり
鍵穴のある素数の前に
風も浪もあふれるばかり
かつて冬を招いた声が
浜辺で子らを呼んでいる
瞳たち
血のかたまりと泳ぐ
瞳たち
花に奪われた表皮のような
暁色の楽器が鳴りつづけている
まだらな痛み
うたがい よろこび
灯りを知らぬ浪の音
涸れ川の底の夜の径を
暗がりの根を避け歩きつづける
のびやかな冬から剥がれる無音
空の水を見つめつづける
戻る 編 削 Point(4)