なまえを呼ぶ。/AquArium
左後ろを向いて、そっと、目を、閉じた
ー指先がふやけていくー
限りなく近づける場所は
狭い狭い
あたしの家
気づけば太くて硬いあなたの胸に
耳があたって心臓の音を聴く
瞼には吐息がかかっている
あなたは3回
あたしの名前を囁いた
うん、って声にならない声で応えたとき
込み上げたのは寂しさなのか嬉しさなのか
分からなくなって
ただあなたをズルイと思った
どうせすぐ脱いでしまうのなら
最初から部屋着貸してなんて
言わなければいいのに、
またあなたの匂いを覚えてしまうじゃない
悔しいくらい温かくて柔らかい唇に触れて
今夜もまた、
あなたを上書きしていく。
**
あたしのだいすきな人の話を
面倒くさそうにしながらも笑って受け止めてくれるあなたと
あなたの守るべき人の話を
1ミリの嫉妬心を持たずに無邪気に聞いているあたしの
間に流れるものはありますか?
あたしは一度も
あなたの名前を呼んだことはない。
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