隣に住む人/夏美かをる
胸に巣食った小さな影が
あなたの時を刻み続ける
砂時計のオリフィスを
いつの間にか歪めていたのかもしれないと
あなた自身が気づいてから
あなたはきっと違う風景を見ている
そう、残酷な告知を受けたあの日から
あなたを取り巻くあらゆるものの
色彩と輪郭がくっきりと浮かび上がって
研ぎ澄まされたあなたの心が
生まれて初めて捉える
朝食に食べるバナナの、
歩道で踊り狂う楓の葉の、
娘さんのよく動く唇の、
サミーの程よく湿った鼻の、
本当のイロとカタチ
朝が来れば太陽が昇る
夜が来れば星が瞬く
そんな当たり前だったことが
実はちっとも当たり前ではなくて
愛する
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