イメージだけがひとり歩きだす場所で/ただのみきや
 
そうして物語の行間
壊れた時計から逃げ出せない二人は
互いの体臭を帯びた愛の上澄みのやるせなさが
ゆっくりと肺を満たし魚に変わるまでの昼と夜を
ナイフのような耳で削りながら冷たく灯していた
忙しなく翅を震わせる裸の思考だけが無邪気に
あてどなく記憶の墓を掘り起し旅支度を整える
肌の透けた少女の捻じれた手首にかけられた呪法の紐
水筒から水を注ぐ巡礼者たち目蓋の裏に刻まれている
光の鎖に繋がれた黒い聖母像が灰になることはなく
瞬きの度に暮らしの手足を喰らう黒い花が埋め尽くす
ひとかけらの狂気を求めて彷徨う者たちが異端者なら
狂気を番犬のように飼いならした者たちを何と呼ぶのか

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