症例:回帰の病/雨の音
過去というのは時々取り出して
いろんな気持ちで見つめるもので
それはけっして変わらない物でもなく
案外に不確かなあやふやな物
省みて幸せな様に
省みて強くなる様に
少しづつその輪郭は
実際とズレてしまう
けれどもそれはその人にとっての
本物の過去にあたるもので
それは間違いに値はしないだろう
悲しい過去は
どこか人事のようであって
胸のうちにいつまでも潜む
不治の病のようなもので
時折死に至ることもある病だから
そのまま放置することなく
上手く折り合いをつけて
発作の無いよう収めるしかない
そして
過去は退廃的な芸術だから
やっぱり消えゆく物であって
消えゆくものだからこそ
愛おしくも感じるのだろう
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