吸収される/草野大悟2
 
言葉がどこまでも走りつづけるから、後ろ姿さえみえなくなった。
いつものことである。
いつも言葉は吸収される。
多くの縊死がそうであるように、死のまえに言葉は無力だ。
けんめい、という汗をかいていたって
ち、という命をさらしたって、無力だ。

たとえば大晦日
特急列車に飛び込んだ母親と息子の筋肉や臓腑が
レールに吸い込まれてしまったように
あるいは
湯気のたつそれらを拾いあつめていた俺たちの魂が
地の底に沈んでいったように
形あるものが形を失うとき
吸収された全てのものが
姿をあらわす。

あらわれたものたちの
ほんのひとにぎりにでも触れることができれば
きみは、あれほど会いたがっていたきみ自身を視認できるはずだ。
それを教えてくれたのは
走り去っていった言葉だ、ということに
きっと気づくはずだ。

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