声/keigo
茜さす静謐な光をたたえた水面に
試しに言葉を浮かべてみたら
小さな波紋を伴いながら
向う岸まで流れていった
齢幾千と見紛う樹々の足下を抜け
鬱蒼と茂るシダを踏み分け
漸く辿り着いた湖畔に浮かべられたのは
言葉を失いかけた少年の
久方ぶりの勇気の結晶であった
やがて蒼く降りる帳を
樹々が徐々に受け入れる頃
浮かび上がる虫たちの声に合わせ
ささやかな幸せに守られながら
密かに繰り返された約束事も
金属のように冷えた空気を
白い蒸気と共に温めたものの
少年の息遣いにあわせ
消えては生まれ
生まれては消え
誰にも記録されることもなく
ただ星空だけが
宇宙の記憶として
そのポケットの中にしまった
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