スプーン/salco
冬
誰もが道行く姿に目をみはった
くすんだ家並の下町
それは何よりも奇異に映えた
女は山の手の私立病院に通う
病人ではない、看護師で
給料とボーナスを貯めて八年
恋人のひとりも作らず
遊びの誘いにも乗らず
年に一度の帰省もせず
ある意味病人かも知れない
全額を引き出された行員は何故か
平静の下に的外れな憤怒をひた隠した
まるで捨てられた男みたいに
そして拾われた女みたいに
店員は思わぬ上客にひれ伏し
裏では即金での支払いを
会計係が三人がかりで鑑定した
売り場責任者の心からの追笑
ゼロの並んだ領収書
こうして女は軽やかな重み
ロシアンセーブルを手
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