ひとつ 篩/木立 悟
 



絵の具のにおいの
血の味の白湯に
夜を映して呑みつづけている


光の奥にあるものに
触れたとたんに移動する
人のものではない矜持がある


熱すぎて近づけない
翼と輪の息
喉から胸から
立ち昇る霧


巨大なブイが
月下の海に浮かんでいる
風が波を叩いている
血まみれの指で叩いている


目の上の目が
次々に飛び去ってゆく
まばたきの重さを
感じる間もなく


ふたりには手
ひとりには指と知っている
だが周りは思いのほかすばやく
またたくまに半身は置き去りにされてゆく


雨の夜の灯 散り咲いて
どこまでも明るい 
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