鰓/nonya
久しぶりに息継ぎしたら
歯磨き粉みたいな
ノスタルジイが
喉に染み渡った
垣間見た空は遠すぎて
その場限りの
センチメンタルなんて
届きそうになかった
きっぱりと反転して
水の下に沈み込む
過剰な硬さの鱗を
鈍く光らせながら
鰓呼吸をし始めたのは
いつ頃だったろう
翼だと思い込んでいた
背中の突起物が
実は貧弱な背鰭だったことに
気がついた時からだろうか
揺れる水藻に身をひそめて
休日の雑踏に消えた
掌の温もりを
鰓で思う
記憶を鰓呼吸する
気紛れな水流をかわしながら
呆気なく煙になった
広い背中を
鰓で思う
時間を鰓呼吸する
ときおり夢やら希望やら
青臭い肺呼吸の
ささやかな痕跡を
鰓で思ってしまい
むせ返ってしまうけれど
鰓呼吸できなかった
溜息は気泡となって
ゆらゆら立ち上り
いずれ水面で弾ける
ぱちんと弾けてしまえば
歪んだ空で弾けてしまえば
綺麗に忘れることができる
鰓で忘れることができる
戻る 編 削 Point(15)