ニューハーバー/草野大悟2
 
りと入って来た角刈りの男に雪子さんが声をかけた。「おっ!」、かなり酔いが回っているらしい男は、片手をあげて返事し、ふらつきながら智子の隣の席に座った。
 日焼けした顔とガッチリした体に不似合いなチャコールグレイのスーツ。彼の前のカウンターには小さな金魚鉢。朱色のランチュウが一匹、逆さまになって泳いでいる。
「ショウチュウ、と、アレ」怪しい呂律で男が言った。すぐにうす水色のグラスで焼酎のお湯割りが出され、特大のだし巻き卵が続いた。
 男は、智子たちの存在をまったく無視して目の前のランチュウをじっと見つめ、黙って湯気の立っているだし巻き卵をつついた。
だし巻き卵が咀嚼され、ゴクリと嚥下され
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