ニューハーバー/草野大悟2
それらはすべて徒労に終わった。懸命の捜査にもかかわらず、被害者の人定も被疑者も分からないまま、この事件は次第に人々の記憶から消えていった。
函館空港で、「トイレに行く」と偽って岩野たちを撒き、その足で中標津に飛んだ。空港に降り立った智子は、迷うことなくイタリアンレストラン『ロゼッタ』に向かっていた。
「野原の所へ帰れ」、そう結城は言った。しかし、結城に身も心も溺れていた自分が、今さら帰れるものか。
結城の最初で最期の思いやりを智子は恨んだ。
沙羅には、携帯で連絡は入れておいた。
「おいで、待ってる」とだけ沙羅は応えた。
雇ってもらえるかどうか分からない。イタリア料理を教えてもらえる保証もどこにもない。根室に向かう深夜高速バスに揺られながら、智子は今さらのように不安に襲われていた。
「おい、トモ、らしくねぇぞ」
暗い海から懐かしい声が聞こえた。
智子の寝顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。
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