ニューハーバー/草野大悟2
 
えっ、もう帰るの? まだ三日目じゃない」
 本田が、目を丸くして言った。
「正直、私には酪農のお手伝い無理」
「そうかぁ。無理かぁ。うーん。じゃ、あと一日だけ、一日だけ泊まりなよ。明日の夜、食事に招待するから。な、なっ」
「食事?」
「うん。食事。イタリア料理」
「イタリア料理? そうねえ……」
 次の夜、本田は、智子を海辺のイタリアンレストランに連れて行った。店の名は『ロゼッタ』。白い漆喰壁に梁の木がむきだしになったシックな雰囲気で、二十テーブルあるフロアは、『予約席』の札のある一席しか空いていない。黒いフォーマルベストに蝶ネクタイのウェイターが、根室湾を一望できるその席に案内した
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