記憶の音/王
その時開いた花を
真紅の花を
アスファルトに咲いた
咽るような花を
僕の網膜は
初夏の映像と
永遠に刻み込んだのだ
熱はやがて失うものだと
理解したのだ
かげろうが揺らいでいた気がする
ネックの折れたギターを
いつまでもそのままに
もう音も出ぬギター
悲鳴もあげられず
流れるだけの液体の悲しみ
サンバーストの体を
僕はたまに抱く
それは熱を失った女のようだ
スクラップは僕の象徴
生まれながらに
握り締めていたものが
運命ならば
僕のこの手の中にも
君達の中にも
同じようにあったのだろうか
僕は掌をながめた
その手で水桶と柄杓を
握るのだ
繰り返される映像に
苛まれる季節
足踏みをする日常に
ベルが鳴る
曇天の朝
先送りされた出発に
もはやピリオドのベルだ
弾かれたように
旅に出る
無人の駅舎が泣く
すべては数限りない一瞬
限りない一瞬の産物だ
少年少女が
少年少女だった者達が
まだ少年少女のまま
待っている
あの町で
あの道で
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