十一月のきつね/石瀬琳々
 
あの子は障子に射す光を見ていた
目の窓に映るきらきらの光はなぜか心を
胸のおくをきゅんと痛くするの
涙が目の窓にもり上がって
よけいにかなしみというものが近づいてくる


かなしみはうつくしい?


それが何のかなしみかは知らず
ただ波打ち際に寄せる砂が濡れていくように
目の窓に雨が降っているの
光は変わらずこんなにもまぶしいのに


あの子はガラス戸に映る葉陰を見ていた
かすかに揺れる影は心にもちらちらと映って
胸のなかをなつかしさで満たしてくれる
いつか動いていた影 あれは何だったろう
幼なごころに感じていたまぼろし かすかなひみつ


さみしさはやさしい?


指で作ってみたかたちは障子に影を作る
光がまた射してくる ここに
目の窓に雨が降っていても
光は 影は静かに心を満たしてくれるの


やさしさはせつない?


こぼれる赤い葉 縁側に落ちて
ひとこえ啼いて わたしのきつね




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