白鱗/島中 充
かにもぐったかと思うと、突如空中へ高く飛び跳ねた。それは一瞬、すらりとした姉の姿のように見えた。下半身に鱗がひかり尾鰭のある白い裸体。見えるはずのないものに羽交い絞めにされ、少年はやっと心を決めた。
苔の生えている、水しぶきのかかる岩と岩の隙間を、木々を掴みながら、草を掴みながら、すべりやすい岩場を四つん這いになって、蛇のように身をくねらせながら登って行った。水で重くなったシャツを脱ぎ、草履を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、頂上の岩の上に立ったときは、擦り傷だらけの半裸であった。少年は白蛇の滝の頂上から滝壺を覗き込んだ。真っ白な巨大な鯉が黒い滝壺を悠々と円を描きながら泳いでいる。これは幻ではないと思った。
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