白鱗/島中 充
 
すこしずつ狂ってきたのかもしれない。薄汚くはだけた胸で村人から乳房をのぞかれ、野良犬のように村の中を歩きまわった姉。姉のようになる事ことを少年はひどく怖がった。自分も少しずつ姉のようになってきたのではと恐れていた。あるはずのない光景が少年の眼の前に現れるのだ。数匹の真っ白な蛇が体をくねらせながら縺れ合うようにゆっくり滝壺を泳ぎ回っていた。深い底から真っ白な一メートルを超える大きな鯉が浮かび上がって来ては、水面に鰭をゆっくり左右に振りながら、悠々と泳ぎ、白い蛇たちと互いに体を触れながら、もつれあい戯れていた。そして白い鯉は仰向けになると胸鰭を広げて、少年を手招きするようにさえ動かした。深く水のなかに
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