白鱗/島中 充
中国山地のなだらかな山の中にその滝はあった。落差が七十メートルを越える白蛇の滝。白く水の落ちるさまが名前の由来である。秋には紅葉の渓谷を、春には桜並木の堤に抱かれて、その美しさは錦と称えられ、錦川と呼ばれた。真夏に時折白い蛇が体をくねらせながらその川を渡った。怪しい美しさが白い絵の具を流したように川面に描かれ、人々を驚かせた。白い蛇は青大将の白子(シロコ、アルビノ)でおぞましいほど白く、細い舌と目は血が透いて真っ赤である。
少年の家は山のふもと、錦川の堤にあった。川に沿って坂道をのぼって行くと鎮守の森があり、社の庭園に大きな池が造られていた。池のなかに数匹の錦鯉が飼われ、その中に白鷺のよう
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