ひとつ つまさき/木立 悟
 





洪水の後の濁った水に
どこからか虹がそそがれる
十一月の坂を
十一月の海を
去ってゆく影


灯りのはざま
肺の宇宙
咳き込むたびに
色を失くす径


焦げ臭く冷たい
左ななめうしろから
十と八の隙間なき脚
常に最期の一行の脚


手のひらの円の湿り気が
腿へ胸へ喉へと動き
棘に棘に咲きひらく
贖いと犠牲のしるしのように


静かであればあるほど緑の
心臓を辿る蜘蛛の夜
投げても投げても
どこにも着かずに消える夜


灯りを洗う糸の水
径から径へ流れる光
どこからか降る紙の手足
積もり 崩れ 歩き出し
路地をゆるりと曲がりゆく


硝子の水につまさき立ちて
冬は空に触れようとする
とどかぬものに
触れようとする


針と針の擦れ合う音
見えるばかりで 聞こえない音
着物を追い 色を追い
やがて荒れ野に消える径に
冬を指さす冬の指に
どこからか虹はそそがれてゆく




























戻る   Point(1)