『サフランの髪飾り』/座一
 

黒い油みたいな涙が、赤い、血の涙に代わるほど。
するとイナフはその泣きじゃくるマリークロッカスの声と、血のにおいに気付き、マリークロッカスのいる最終両までやってきた。
イナフはマリークロッカスの向かい合わせの椅子に腰を下ろすと
マリークロッカスの血の涙を、両手の指先ですくい取って、
自分の両ほほに、紅くハートを描いて、静かにほほえんだ。
100トンぐらいの重荷をおろしたての
まるで身軽な 小さな子供
イナフは また 無垢になってしまった
足元をサフランの花畑が、時々さわるので、風と約束して、イナフはサフランを摘み取り、髪飾りにして、マリークロッカスの頭に着けてくれた。
そしてまた、静かにほほえむのだ。

『さあ、もういいかげんに うなずくのをやめないか
何もかも認めたって
きみの人生は、悲しみ虚しさをくりかえすだけだ』

そんなことなど 誰が言えよう?
イナフは突風列車から、するりと降りると、サフランの花畑を、踊りながら駆け抜けていく。
背中には、新たに銃弾の跡が・・・
それすらも喜びとして。



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