終夏の刻/夢之櫻
 
神社の境内の中心に
夕闇の光が満ちて来る
日暮の鳴き声を子守唄に
私は貴女の膝の上で眠っていた
薫る貴女の全て
額に浮かぶ汗でさえ気にならず
ずっと私は眠っていたのです

見えはしないが瞼に映る
線路の先に漂う夏陽炎
急いで追いかけて慌てて転ぶ
服に付いた泥でさえ
それは夏の欠片で
流れ出た血でさえ
夏の想い出

夕闇の光が満ちた時
日暮たちは鳴くのを止める
月が現れ
秋の虫が産声を上げる
貴女は崩れ去って
残ったものは貴女の欠片

今、夏が終わる

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