100/イシダユーリ
赤ん坊は
夕暮れに
いつまでも
放り出されている
大人は
夜に
かえっていく
夜じゅう
あのときは
美しかったと
小さい声で
話している
顎に火を受けて
あのとき
美しかった
あの空に
誰の手も
離れて
あの赤ん坊が
浮かべば
もっと
美しかったろうな
そう
一瞬だけ
そのあとは
泣き声も
なく
飛沫が
とぶ
そのぶん
わたしたちは
一生
責められる
一生
責められる
と
笑いながら
びしょぬれに
なった
胸を
手で隠して
落ちた
コップの
かけらを
ひろえば
朝が
そこ
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