さかな/裃左右之介
 
した感触。息苦しい。
暑さのせいだろうか。
ラジオでは記録的な暑さになるとアナウンサーが喋っている。
でもそんなことより早く波打ち際にたどり着きたい。

一歩一歩力の入らない足で進む。そういえばもう電話の音は聞こえない。
ぎこちなく着ていた服を脱ぎ捨てて冷たい海水に足を浸す。
体の先端をくすぐるように波が撫でていく。
倒れるように全身を海のうねりに任せる。段々と体が重さを失っていく。
生まれたときのことは憶えていないが多分こんなかんじだったのだろう。
沖へと身をよじりながら泳いでいく。
深い深いところまで潜りたかった。
息をとめたままかつて足だった部分をたなびかせ更に深いところに潜っていく。

見開かれた瞳は世界を見続けるのだから瞼はいらない。

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